コラム

心理職の一つである「産業カウンセラー」とは

産業カウンセラーは、働く人々と組織が抱える問題を心理的手法によって解決に導く専門家です。近年の複雑化する職場環境や多様化する働き方の中で、従業員のメンタルヘルスケアや組織の健全な発展を支援する産業カウンセラーの役割は、ますます重要性を増しています。

産業カウンセラーとは

産業カウンセラーは、一般社団法人日本産業カウンセラー協会(JAICO)が1971年から認定を開始した民間資格で、現在では6万人以上が取得しています。「働く人(個人)と職場(組織)を支援する」ことを目的とし、心理学的手法を用いて、働く人たちが自らの力で問題を解決できるよう支援する役割を担っています。

産業カウンセラー資格の取得難易度

産業カウンセラー資格を取得するには、受験資格を得るため日本産業カウンセラー協会が実施する養成講座を修了する必要があります。この講座では、理論講義36時間、面接実習104時間、在宅研修40時間相当など、合計180時間以上の学習が求められます。受験では、学科試験(筆記)と実技試験(ロールプレイング・口述)を受験し、両方で合格基準の6割以上を達成しなければなりません。

心理資格における産業カウンセラーの位置づけ

心理関連資格には、公認心理師、臨床心理士、キャリアコンサルタント、産業カウンセラーなどがあります。公認心理師および臨床心理士は医療・教育分野での活動が中心となり、企業組織や職場で活躍するのは産業カウンセラーやキャリアコンサルタントです。このうち心理的支援全般を行うのは産業カウンセラーであり、キャリアコンサルタントはキャリア形成に焦点を絞ります。

資格名種類主な活動領域特徴
公認心理師国家資格医療・教育・福祉心理検査や治療に従事
臨床心理士民間資格医療・教育臨床心理学に基づく支援
産業カウンセラー民間資格職場・組織メンタルヘルスや人間関係改善
キャリアコンサルタント国家資格キャリア形成支援転職や就職相談に特化

コンサルティングとカウンセリングの違い

カウンセリングとコンサルティングは、どちらも「相談」を基盤とする支援活動ですが、その目的やアプローチには明確な違いがあります。相談者自身で問題提起や解決などを能動的に行うためのサポートは「カウンセリング」を、積極的な提案を必要とするときは「コンサルティング」とのように切り替えてこそ、優れた対応者であるといえます。

■カウンセリングとは(内面からの気づきを促す)

……クライアントの心理的な問題や感情面の課題に焦点を当てます。カウンセラーはクライアントの話を傾聴し、共感的に寄り添いながら、クライアント自身が内面的な気づきを得て問題を解決するよう支援します。このプロセスでは、過去の経験や感情を深く掘り下げることが多く、心の安定や自己成長を目指すことが目的です。

■コンサルティングとは(外部から解決策を提供する)

……問題解決や目標達成に向け、実践的なアドバイスを提供することを目的とします。コンサルタントは専門知識やデータ分析を駆使し、経営課題や組織改革などの課題に対して効率的で現実的な解決策を提示します。クライアント自身が答えを見つけるというよりも、外部からの専門的な提案が重視されます。

産業カウンセラーの主な活動領域

産業カウンセラーの主な活動領域

産業カウンセラーの活動は主に3つの領域に分けられます。これらの領域は互いに関連し合いながら、職場全体の健全性向上に貢献しています。

メンタルヘルス対策への支援

現代の企業では、リストラによる雇用不安や成果主義の導入など、労働者にストレスを与える要因が数多く存在します。このようなストレスを放置すれば、心身の変調が生産性の低下につながり、小さなミスが大きな事故を引き起こす危険性も生じます。産業カウンセラーは、カウンセリングを通じて従業員の多様な心の問題に寄り添い、早期解決を手助けします。

職場でのストレス対策と個人のストレスコントロールへの支援によって、労働者のメンタルヘルスの維持・改善に貢献することが、産業カウンセラーの重要な役割のひとつです。特に近年のコロナ禍や働き方改革など、急速な環境変化によるストレスへの対応は欠かせないものとなっています。

キャリア形成への支援

産業カウンセラーの特徴として、メンタルヘルスだけでなくキャリア形成への支援も行っています。産業構造の変化や技術革新の進展、労働者の就業意識・就業形態の多様化により、労働移動が激しくなっている現代では、企業内だけでなく企業外でも通用する職業能力が求められるようになりました。

産業カウンセラーは「上質な職業生活(Quality of Working Life)」の実現という視点から、働く人々のキャリア設計や能力開発を支援します。多様な働き方が広がる現代において、自分のキャリアをどう築いていくかという悩みや不安に対して、適切なサポートを提供することができます。

職場における人間関係の開発・環境改善の支援

個人への支援だけでなく、職場や組織単位でのコミュニケーション改善や職場環境の向上も産業カウンセラーの重要な役割です。職場で発生する問題の一つひとつに対応する「モグラ叩き」的なアプローチではなく、予防開発的な対策を提案することで、組織全体の健全性向上に貢献します。

基本的なコミュニケーションスキルのトレーニングや職場環境の問題点に関する提言など、個人だけでなく組織全体の成長を促進することができます。性差別のない職場の実現や、より快適な職場環境づくりにも積極的に取り組む姿勢が産業カウンセラーの特徴です。

当社がカウンセリングを重視する2つの理由

当社がカウンセリングを重視する2つの理由

現代のビジネス環境では、経済的・法的な課題だけでなく、心理的な問題が複雑に絡み合うケースが増えています。特にファミリービジネスや不動産トラブルといった分野では、感情や家族関係が深く影響し、問題解決を難しくしています。当社は、こうした心理的要因に着目し、カウンセリングを活用することで、クライアントの課題を根本から解決する支援を行っています。

ファミリービジネスは心理的な問題が大きい

ファミリービジネスは経済的な視点や法律的な視点だけでなく、心理的な視点が重要です。親子間の価値観の違いや世代間の葛藤、後継者問題など、感情や深層心理が絡むため、単なる経営戦略では解決できない課題が多く存在します。こうした問題には、心理的な支援を通じて家族間の調和を図ることが不可欠です。

不動産のトラブルは家族の問題であることが多い

土地や建物に関する問題にもアプローチする当社では、問題が家族間の感情的な対立の現れであることにも注目しています。こうしたトラブルは法律や経済面だけで解決することは難しく、家族間の信頼回復や心理的なサポートが必要です。当社では、不動産問題における心理的要因にもアプローチし、根本的な解決を目指しています。

企業にとっての産業カウンセラー活用のメリット

産業カウンセラーは、従業員のメンタルヘルスケアを通じて、企業全体の生産性や職場環境の改善に寄与します。従業員一人ひとりの心理的安定を支援することで、モチベーション向上や定着率改善など、経営面での具体的なメリットをもたらします。

メンタルヘルスの向上

従業員のメンタルヘルスは、企業にとって単なる「福利厚生の問題」ではなく、生産性や安全性にも関わる重要な経営課題です。産業カウンセラーの支援によって、従業員のメンタルヘルス不調を予防し、早期発見・早期対応につなげることができます。

モチベーション・パフォーマンスの向上

経営環境が急速に変化する現代では、従業員の心理的な安定のみならず、モチベーションの維持もビジネスの持続的な成長に不可欠だと言えます。産業カウンセラーは、人材の特性理解を前提に適切な配置や組織づくりに参加することで、各人のパフォーマンス最大化を実現することにも貢献

従業員定着率の向上

人材の採用・育成にかかるコストを考えると、既存の人材が長く活躍できる環境を整えることは、企業にとって大きな経済的メリットがあります。産業カウンセラーによる従業員のメンタルヘルスとモチベーションのケアは、職場に対する満足度を高め、定着率向上につなげることができます。

M&A・組織変革における産業カウンセラーの役割

M&Aや組織変革は、企業にとって成長の機会である一方、従業員に心理的な負担をもたらすことが少なくありません。産業カウンセラーは、変化に伴う不安への対応やリーダーシップ開発、組織診断などを通じて、変革プロセスを円滑に進めるための重要な役割を果たします。

変化に伴う不安への対応

M&Aや事業再編などの大きな組織変革は、従業員にストレスを与えがちです。産業カウンセラーは、このような変化に伴う従業員の心理的課題に対応し、スムーズな移行をサポートすることができます。

とくに、異なる企業文化の統合や新しい役割への適応など、M&A後の統合プロセスにおける心理的サポートは、統合の成功に大きく貢献します。

リーダーシップ開発とチーム構築

組織変革を成功させるためには、変革を主導するリーダーの育成と効果的なチーム構築が不可欠です。産業カウンセラーは、リーダーの自己理解や対人関係スキルの向上を支援し、効果的なリーダーシップの発揮を支援します。

また、多様なバックグラウンドを持つメンバーが協働するチーム構築においては、産業カウンセラーのファシリテーションスキル(心理的ハードルを超えて合意形成を促すスキル)を活用できます。

組織診断と改善提案

企業文化の融合や新しい価値観の醸成など、目に見えない組織の側面に関する支援は、M&Aの成功に大きく寄与します。この点、組織の健全性を評価し、改善に向けた提案を行えるのも産業カウンセラー資格保有者の強みです。

従業員や役員の声を丁寧に聴き、財務や法務の側面だけでは見落としがちな「人」の要素を適切に管理することは、間接的に企業価値を向上させる効果をもたらすでしょう。

まとめ

産業カウンセラーは、経営者や従業員、会社のオーナーなどの心理的支援を通じ、個人の成長や組織全体の健全性向上に寄与する重要な存在となり得ます。組織および資産構成の変化や生産性向上が求められるシーンでは、その専門性が大きな価値を発揮します。

当社代表は、このたび産業カウンセラー資格を取得し、経営コンサルティングやM&A支援に心理的アプローチを加えることで、より包括的な支援を提供できる体制を整えました。これからも「人」と「組織」の双方に寄り添いながら、クライアントの課題解決と成長を全力でサポートしてまいります。ぜひお気軽にご相談ください。

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その他のお知らせ

中小M&Aガイドライン(第2版)遵守の宣言について

株式会社東京アライアンスアドバイザリー(以下、「当社」という。)は、中小企業庁が定めた「中小 M&A ガイドライン(第 2 版)」(令和5年9月)を遵守していることを、ここに宣言いたします。 当社は、中小 M&A ガイドラインを遵守し、下記の取組・対応を実施しております。

「中小M&Aガイドライン」の概要
初版(2020年3月31日)
第2版(2023年9月22日)

中小企業庁策定の中小M&Aガイドラインの内容

【支援の質の確保・向上に向けた取組】

1.依頼者との契約に基づく義務を履行します。

  • 善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって仲介業務・FA 業務を行います。
  • 依頼者の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図りません。

2.契約上の義務を負うかにかかわらず、職業倫理として、依頼者の意思を尊重し、利益を実現するための対応を行います。

3.代表者は、支援の質の確保・向上のため、①知識・能力向上、②適正な業務遂行を図ることが不可欠であることを認識しており、当該取組が重要である旨のメッセージを社内外に発信しています。また、発信したメッセージと整合的な取組を実施します。

4.知識・能力の向上のための取組を実施しています。

5.支援業務を行う役員や従業員における適正な業務を確保するための取組を実施しています。

6.業務の一部を第三者に委託する場合、外部委託先における業務の適正な遂行を確保するための取組を実施しています。

【M&Aプロセスにおける具体的な行動指針】

7.専門的な知見に基づき、依頼者に対して実践的な提案を行い、依頼者の M&A の意思決定を支援します。その際、以下の点に留意します。

  • 想定される重要なメリット・デメリットを知り得る限り、相談者に対して明示的に説明します。
  • 仲介契約・FA契約締結前における相談者の企業情報の取扱いについても、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)を負っていることを自覚し、適切に取扱います。

9.契約締結前には、依頼者に対し仲介契約・FA契約に係る重要な事項(以下(1)~(13))を記載した書面を交付する等して、明確な説明を行い、依頼者の納得を得ます。

(1) 譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と契約を締結し双方に助言する仲介者、一方当事者のみと契約を締結し一方のみに助言するFAの違いとそれぞれの特徴(仲介者として両当事者から手数料を受領する場合には、その旨も含む。)
(2) 提供する業務の範囲・内容(マッチングまで行う、バリュエーション、交渉、スキーム立案等)
(3) 手数料に関する事項(算定基準、金額、最低手数料、既に支払を受けた手数料の控除、支払時期等)
(4) 手数料以外に依頼者が支払うべき費用(費用の種類、支払時期等)
(5) 秘密保持に関する事項(依頼者に秘密保持義務を課す場合にはその旨、秘密保持の対象となる事実、士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センター等に開示する場合の秘密保持義務の一部解除等)
(6) 直接交渉の制限に関する事項(依頼者自らが候補先を発見すること及び依頼者自ら発見した候補先との直接交渉を禁止する場合にはその旨、直接交渉が制限される対象者や目的の範囲等)
(7) 専任条項(セカンド・オピニオンの可否等)

(8) テール条項(テール期間、対象となるM&A等)

(9) 契約期間(契約期間、更新(期間の延長)に関する事項等)
(10)契約終了後も効力を有する条項がある場合には、当該条項、その有効期間等
(11)契約の解除に関する事項及び依頼者が、仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する場合には、当該中途解約に関する事項
(12)責任(免責)に関する事項(損害賠償責任が発生する要件、賠償額の範囲等)
(13)(仲介者の場合)依頼者との利益相反のおそれがあるものと想定される事項

10.契約を締結する権限を有する方に対して説明します。

11.説明の後は、依頼者に対し、十分な検討時間を与えます。

12.バリュエーション(企業価値評価・事業評価)の実施に当たっては、評価の手法や前提条件等を依頼者に事前に説明し、評価の手法や価格帯についても依頼者の納得を得ます。

13.譲り受け側の選定(マッチング)に当たっては、秘密保持契約締結前の段階で、譲り渡し側に関する詳細な情報が外部に流出・漏えいしないよう注意します。

14.交渉に当たっては、慣れない依頼者にも中小 M&A の全体像や今後の流れを可能な限り分かりやすく説明すること等により、寄り添う形でサポートします。

15.デュー・デリジェンス(DD)の実施に当たっては、譲り渡し側に対し譲り受け側が要求する資料の準備を促し、サポートします。

16.最終契約の締結に当たっては、契約内容に漏れがないよう依頼者に対して再度の確認を促します。

17.クロージングに当たっては、クロージングに向けた具体的な段取りを整えた上で、当日には譲り受け側から譲渡対価が確実に入金されたことを確認します。

【仲介契約・FA契約の契約条項に関する留意点内容について】

■ 専任条項については、特に以下の点を遵守して、行動します。

18.専任条項を設ける場合、その対象範囲を可能な限り限定します。具体的には、依頼者が他の支援機関の意見を求めたい部分を仲介者・FAに対して明確にした上、これを妨げるべき合理的な理由がない場合には、依頼者に対し、他の支援機関に対してセカンド・オピニオンを求めることを許容します。ただし、相手方当事者に関する情報の開示を禁止したり、相談先を法令上又は契約上の秘密保持義務がある者や事業承継・引継ぎ支援センター等の公的機関に限定したりする等、情報管理に配慮します。

19.専任条項を設ける場合には、契約期間を最長でも6か月~1年以内を目安として定めます。

20.依頼者が任意の時点で仲介契約・FA契約を中途解約できることを明記する条項等(口頭での明言も含む。)を設けます。

■ 直接交渉の制限に関する条項については、特に以下の点を遵守して、行動します。

21.直接交渉が制限される候補先は、当該M&A専門業者が関与・接触し、紹介した候補先のみに限定します(依頼者が「自ら候補先を発見しないこと」及び「自ら発見した候補先と直接交渉しないこと(依頼者が発見した候補先とのM&A成立に向けた支援を M&A 専門業者に依頼する場合を想定)」を明示的に了解している場合を除く。)。

22.直接交渉が制限される交渉は、依頼者と候補先のM&Aに関する目的で行われるものに限定します。

23 直接交渉の制限に関する条項の有効期間は、仲介契約・FA 契約が終了するまでに限定します。

■ テール条項については、特に以下の点を遵守して、行動します。

24.テール期間は最長でも2年~3年以内を目安とします。

25.テール条項の対象は、あくまで当該M&A専門業者が関与・接触し、譲り渡し側に対して紹介した譲り受け側のみに限定します。

【仲介業務を行う場合の留意点】

■ 仲介業務を行う場合、特に以下の点を遵守して、行動します。

26.依頼者との契約に基づく義務を履行します。いずれの依頼者に対しても公平・公正であり、いずれか一方の利益の優先やいずれか一方の利益を不当に害するような対応をしません。

27 仲介契約締結前に、譲り渡し側・譲り受け側の両当事者と仲介契約を締結する仲介者であるということ(特に、仲介契約において、両当事者から手数料を受領することが定められている場合には、その旨)を、両当事者に伝えます.

28.仲介契約締結に当たり、予め、両当事者間において利益相反のおそれがあるものと想定される事項について、各当事者に対し、明示的に説明を行います。

例:譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約を締結することから、双方のコミュニケーションや円滑な手続遂行を期待しやすくなる反面、必ずしも譲渡額の最大化だけを重視しないこと

29.また、別途、両当事者間における利益相反のおそれがある事項(一方当事者にとってのみ有利又は不利な情報を含む。)を認識した場合には、この点に関する情報を、各当事者に対し、適時に明示的に開示します。

30.確定的なバリュエーションを実施せず、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝えます。

31.参考資料として自ら簡易に算定(簡易評価)した、概算額・暫定額としてのバリュエーションの結果を両当事者に示す場合には、以下の点を両当事者に対して明示します。

  • あくまで確定的なバリュエーションを実施したものではなく、参考資料として簡易に算定したものであるということ
  • 当該簡易評価の際に一方当事者の意向・意見等を考慮した場合、当該意向・意見等の内容
  • 必要に応じて士業等専門家等の意見を求めることができること

32.交渉のサポートにおいては、一方当事者の利益のみを図ることなく、中立性・公平性をもって、両当事者の利益を図ります。

33.デューデリジェンスを自ら実施せず、デューデリジェンス報告書の内容に係る結論を決定しないこととし、依頼者に対し、必要に応じて士業等専門家等の意見を求めるよう伝えます。

上記の他、当社は、中小M&Aガイドラインの趣旨に則った行動をいたします。